米国けんきゅうにっき 講演者とのディスカッション
学位取得後、研究者として米国へ。このさきどのようなことが待ち受けているのでしょうか?
 昨日はセミナー講演者とのディスカッションがあった。米国や日本の大学では外部から(米国なら主に米国内の他大学の教授や研究者)を招待して講演会を開く。いわゆる招待講演と呼ばれるものだが、特に日本の講演と大きく違うのはほぼ一日かけて講演者はデパートメントに所属する教授や大学院生との交流の為に各オフィスに訪れてディスカッションをするのだ。だから招待講演といっても講演者はセミナーのある日は一日、大忙し。ちなみに日本ならば、ホストの研究室の学生とのディスカッションはあるかもしれないが、基本的にはセミナーの時間のみが講演者にとっての拘束時間となる。あとその夜は飲み会か。

 そんなセミナーが昨日(金曜日)に行われたのであるが、隣の研究室のボス(今回のホスト)の計らいで、その講演者とのディスカッションをスケジュールに組み込んでもらえた。以前は東海岸に居た時も含めて、結構、外部の研究者とディスカッションする機会はあったのだが、最近に限って言えばウチのボスはほとんどラボに居ない(つーかこの町にいない)ので、こんな機会はほとんど無くなっていた。そーいうわけで、ちょっと気合いを入れて準備していたのである。

 さて講演者の方はミシガン大学の先生で隣の教授の元同僚らしい。Rieske Oxygenaseというカテコール類の酸化反応を触媒する酵素の研究をやってるとか。ワタシのスケジュールはその講演の前だったので、彼の研究内容はほとんど知らなかったわけだが、まあ生化学が専門のようである。

 ワタシはと言えば、今回はワタシが研究している酵素の阻害反応について紹介した。いわゆるMichaelis-Menten挙動のアレである。複数の双曲線(Michaelis-Menten曲線)を総合的にフィット(グローバルフィッティング)する計算法によると、ある阻害剤の酵素に対する阻害様式が不競合阻害(uncompetitive)を示すと言ったところ、ダブルレシプロカルプロットはどうなのか聞かれた。具体的にはLineweaver-Burkプロットのことなのだが、彼が聞いてきた理由としてフィッティングの確からしさの目安となる相関値が非競合阻害(noncompetitive)と差がほとんど無いためである(さらにuncompetitive様式は比較的レアなケースでもある)。ワタシはレシプロカルプロット、特にLineweaver-burkプロットは低濃度の基質条件だと誤差が大きくなると理解しているので、基本的には傍証としては有効だが決定打にはならないと考えていた。そういう意味でも素直にグローバルフィッティングの計算値が理論上、最もuncompetitive様式に近いという結論だった(まあそれ以外に各阻害剤濃度におけるMichaelis-Menten曲線のフィッティングから得られるVmax値とKm値が変化していることからも、uncompetitive様式の挙動に特徴的であるという観測結果に基づいているのだが)。

 Lineweaver-Burkプロットの各阻害剤濃度での直線はほぼ平行であったのだが、4つの直線のうち1つだけ(阻害剤非共存での直線)基質の低濃度領域の誤差が大きく、他の3つの直線とは平行になっているとは言い難い(この場合、やはり混合非競合阻害の可能性もでてくるのだが、グローバルフィッッティングによる混合型の相関関数はuncompetitive様式以上にはならなかった)。しかし別のレシプロカルプロットであるHans-Woolfプロットは4つの直線がy切片上で交差することからuncompetitive様式を支持している。ただしこれもやはり傍証でしかない。

 まあその教授の言いたいことは、阻害作用があるということを前面に出しなさいということだ。阻害様式を議論しだしたら査読でつっこまれるぞと。ただ反応機構の議論も展開したいので、阻害様式を言及するのが望ましい。実際、上述した各阻害剤濃度におけるMichaelis-Menten曲線のフィットから得られるVmaxとKmの値が変化しているというのは揺るぎない事実であり、グローバルフィッティングの微妙さはともかく、Hans-Woolfプロットの結果はuncompetitive様式を支持している。

 もう一つこの議論を主張する根拠がある。この阻害剤の阻害作用の程度を示す定数Ki(阻害平衡定数)の値がnMオーダーに達すること(つまり非常に強力な阻害剤であり、速度論を見る際の阻害剤の濃度と酵素濃度が近い状態になった)から、遅延結合阻害作用(slow-binding inhibition)の可能性が存在していた。これは簡単にいえば、阻害剤と酵素の結合或いは解離が非常に遅く、酵素と阻害剤の平衡が速いというMichaelis-Menten挙動に従わない様式である。この場合、Morrison式というのがあり、ここから初期速度、定常状態速度、速度定数が得られる。これを阻害剤濃度や基質濃度を変化させてKi値などを求めるのであるが、この結果でもこの阻害剤はuncompetitive様式であることを支持していた。ただこれもあるプロットの誤差が大きく出ていたので、様式を語るには信頼に値しないというカンジだったな。

 まあグダグダ書いたことはともかく、その教授から指摘された点はプレゼンをすることにおいて非常に勉強になる。ちょっと悪い言い方をすれば、データの弱点を以下に隠蔽してプレゼンするかってやつだな(科学者としてどーなのよっていうのはともかくね)。

 ああ、あとちょっとイラッ☆ときたのが、ウチの学生が相関関数の差の小ささをみて、「それじゃあ区分けできませんよね」とコメントしてくれたこと。つうか、オマイはもっと実験してから、そーいうコメントを吐けよと思った。


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【2011/01/29 14:21】 | 研究
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