米国けんきゅうにっき 極低温電子スピン共鳴
学位取得後、研究者として米国へ。このさきどのようなことが待ち受けているのでしょうか?
 来週の始めに液体ヘリウム温度で電子スピン共鳴(ESR or EPR)によるタンパク質の測定を行うのだが、サンプルをできるだけフレッシュな状態で測定したいため、週末にかけてサンプル調製をしている。ところが、前エントリでもふれたのだが、分子量分画用のゲル濾過クロマトグラフィーの一つであるSuperdex200のカラムが割れてしまったため、ちょっと実験計画に狂いが生じている。

 まあ今更、過ぎたことを言っても仕方がないんだが、個人的には収まらないので、ここでグダグダ書かせてもらおう(というわけで、本エントリは不満の垂れ流しなので読み飛ばしてもらって結構である)。


 今回測定する試料は、以前にも触れた亜酸化窒素還元酵素というタンパク質のある酸化状態のもの。以前も測定をしたのだが、どうも明瞭な結果が得られなかったために再測定となったものである。

 この愚痴を始める前にちょっと背景を説明しよう。亜酸化窒素還元酵素は全部で12コの銅イオンをもつタンパク質なのだが、これは空気中に放置すると銅イオンを失ってしまう。それに伴い酵素活性も失われてしまうため、精製などは嫌気雰囲気下で行わなければならない。だから酵素活性の有無は実験者の嫌気下での操作にかかっているといっても過言ではない。

 2005年にこのラボに参加してからすでに34回、精製を行っているが、最初の頃の4回くらいはまったく活性を持たないタンパク質しか得られず、10回目くらいまでは低活性のものしか精製できなかった。まあ言いたいことは、何度も精製を繰り返して経験を積まないと高活性のタンパク質が得られなかったということなんだが......まあともかく、この亜酸化窒素還元酵素を精製する場合、ワタシはルーチンワーク(必ず行う決まり切った作業)として、まずタンパク質濃度を決定する。通常は紫外吸収帯の強度から見積もるのとタンパク質アッセイ(ワタシの場合はBCAかビュレット法)で濃度を見積もってから、それぞれの値がほぼ同じであることを確認する(もし同じにならなければ精製度が悪い可能性があるので、高活性は望めない)。そして銅イオンの量(原子吸光法)と無機硫黄の量(Broderick法)を決定してから、酵素活性を測定する。従って、酵素活性が低かったり、銅イオン量が少なかったロットは当然、クリティカルな実験には使用しない。これがスタンダードだ。

 で、今回の酸化状態のタンパク質はさらにフェリシアン化カリウムで酸化してから、さらにある試薬を用いて部分還元させることで得られる。ちなみにこの酸化状態のタンパク質にとっても興味を持っていたのが、Stanfordの某有名な計算化学のグループ。ワタシの前任者にも催促していたのだが、うまくできなくてお蔵入りしていた。

 最近(といってももう4年ほど前)になって、ワタシはその酸化状態のタンパク質を得る良いアイデアを思いついた(ちなみにちょうどその頃にボスを説得して購入したのが、上述のSuperdex200カラムだ。だから壊されてかなりアタマに来ているのもわかっていただけるかな?)。そんでそのアイデア通りにやってみたら、予想通りにその酸化状態とおぼしきモノが得られたわけ。ただそれを証明するためにEPRを測定してスピン状態を同定しなければならない。そーいうわけで、いままで時間が掛かっていたのだ。

 さてさらに最近になって、その某学生がその酸化状態の亜酸化窒素還元酵素を用いた実験を始めたんだ。ただそいつの実験にはちょっと問題がある。先ほど述べたスタンダードを全く満たしていないタンパク質を用いて実験しているのだ。もちろん嫌気下での精製法や一通りの同定法はレクチャーしたんだがね。こんな状態のものを用いて結果が出てきても、正直言えば評価できないと思うんだ。例えば、ワタシの測定した電子スペクトルと彼のを比較すると強度が違うんだよ。それで銅イオンの量を聞くと少ないとか、酵素活性を測っていないとかいうわけさ。

 まあ学術的なワタシの彼に対する不満は最終的に本人の問題となるので、それは良いとしよう。ただそんな稚拙な実験をしていて装置を壊しましたというのはちょっとむかつくわ。特に前エントリでも触れたけど、ワタシにはここでの時間がもう2ヶ月を切っているんだよ。そのタイミングで機器が1,2週間使えなくなるっていうのは、正直イタい。

 さらに言おうか。来週のEPR測定は3週間前には彼に告知してあった。そしてワタシはできるだけフレッシュなサンプルが欲しかったから、今週の終わりにSuperdex200を使いたかったんだ。壊した日の前日、ワタシが帰宅する直前に、「壊さないでね」と言ったにもかかわらず壊すってのはどうなのよとマジで思う。なんで念を押したのかと言えば、むか~しキャンプで食材をこぼさないでねと言った矢先にこぼしたりしていたのを思い出したからなんだが、それ以上に彼が長時間の実験をずっと集中して行っているのを見たことがなかったから。なんか精製中とかも椅子に座っていたり(まあそれを言うのはあまりに口やかましすぎるかもしれないけど、ワタシが大学院生の頃にそんな態度だったら、こってり絞られてたわな)、重要な実験をやっていそうでも必ず食事に中座したり(まあ空腹で集中力が欠けてしまうってことなんだろうけど......)、極めつけは朝が非常に遅かったり(でも酷いときは11時くらいにやって来て、帰りは6時、昼飯に2時間とか......)。そんな生活をほぼ毎日見せつけられていると、彼の実験およびそこから得られる結果に対してどーしても斜に見てしまうわ。

 まあぐだぐだ書いたが、言いたいことは一つ。正直言ってこのラボで彼と研究をともにしていくのはムリということだ。ここの研究テーマは個人的にはとっても興味がある。もっと言えば愛しているといってもいいや。彼がここに参加するときに聞いたんだよね~、亜酸化窒素還元酵素に興味があるの?って。そーしたらどんな返事が返ってきたと思う?

「正直、亜酸化窒素還元酵素には興味がありません。」

 あのときはとっても悲しかったな。ただ今思えば、アノ時点でコイツとは会わないということだったんだろうね。


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【2011/06/25 16:36】 | 研究
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