米国けんきゅうにっき TCEPという還元剤
学位取得後、研究者として米国へ。このさきどのようなことが待ち受けているのでしょうか?
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 モンタナ時代のNSFの予算が今年終了したようなので、その最終レポートの草稿を書いてくれと前のラボのラボマネから連絡がきた。このNSFのプロポーザル、2007年ごろだったっけ?非常に苦労したなぁ。年が明けて間もないときにボスのオフィスで午前2時くらいまで頑張っていた記憶が...なんども推敲と精読の繰り返しだった。こんなのはD論以来だったな。そのプロジェクトもとうとう終わりである。最近、卒業したらしい日本人の学生もラボを去り、ボスは別の大学に移り、研究室自体が閉鎖となる。なんでも新しいファカルティもきまったとか(ワタシもアプリケーションだしたんだけどね...)。まあ思い入れの深いプロジェクトだった。そういうわけで、土日かけてこの最終レポートを仕上げたんだが、もう2年前だからなぁ、モンタナを去ってね。意外と忘れている。しかも、もう一報、ここからの論文を書かなきゃいかんのだが、このままで大丈夫なのかと一抹の不安が...



 さてネタがないので引き続き研究の話題でも。休暇が終わってからタンパク質の精製をしている。相変わらずstopped-flowがぶっ壊れたままだからね。ワタシのターゲットはCYP2D6。市販薬の約3割を代謝すると言われている酵素である。主に我々の肝臓で生産される酵素なのだが、ウチでは他と同様に大腸菌で発現させている。C末端側にヒスチジンを4つつけているのだが、Niカラムだけでは満足のいく純度が得られない。そーいうわけで、Niカラムを含め5つのカラム(+硫安沈殿)を使って精製している。



 このCYP2D6だがタンパク質表面に5つのシステインが露出している。これの意味するところは、生成中に空気中の酸素によってシステインのチオール基が酸化され望んでいないジスルフィド結合を形成してしまう可能性がある。特に分子間でジスルフィド架橋が出来上がれば、析出の危険性もはらんでくる。


 これまではベータメルカプトエタノールというちょっと臭い試薬を使っていた。これはジスルフィド結合を還元する生化学では定番の還元剤である(ジチオスレイトール、DTTを使わない理由は、これはキレート効果があるのでNiカラムからニッケルイオンを取り除いてしまう可能性があるため)。ただこのベータメルカプトエタノールの問題点はタンパク質上のシステインとジスルフィド結合を形成する可能性があるということ。まあこういった修飾によるタンパク質の反応性への影響は未知数なんだけどね。


 この潜在的な問題点を解決するために、今回はトリス(カルボキシエチル)ホスフィン、TCEPという還元剤を使ってみることにした。匂いもないし空気中でも比較的安定である。ホスフィンといえばよく酸化反応の基質とかでつかうし、錯体化学だと配位子として使うよね。デラウェアで使ってたトリメチルホスフィンとかなんともいえないいや~なニオイがしていたんだが、このTCEPは無臭である。


 で、このTCEPを使った結果、意外とイイ感じ。自分のウデが上達したのか、このTCEPの寄与かわからんけど、少なくとも収量は以前よりも上がっている。さらに純度の指標となるspecific content(ヘム分子のモル数/タンパク質グラム数)が理論値、18nmol/mgに迫る値を示した。これはヘム分子がタンパク質分子あたりにどれだけあるのかを示しているのだが、18nmol/mgというのはタンパク質1分子あたり1つのヘム分子を含むことを示す。つまり得られたタンパク質溶液中にはアポ体(ヘムを含まないタンパク質)がほとんどなくホロ体(ヘムを含んだ機能するタンパク質)のみで構成されているというわけ。


 といわけで、今週のレポートのネタには事欠かないわけである。



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【2013/08/12 10:22】 | 研究
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